ある蒸し暑い夏の午後

ときどきポジティブ

第三の処女

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赤いはずである。私の夢はめまいのように赤いのだ。少し狂っているからであり、女だからでもある。女だから? むろん彼女はこれには何の根拠もないと自覚していた。この考えには理論的にも統計的にも裏づけがない。彼女と仲のいい処女が言ったのだ。たまに視界が赤くなると。感情が高ぶった時、緊張した時。恥ずかしい思いをした時。自意識過剰だから人前でしばしば挙動不審になる。そんな自分を見つけた時だ。女だからだと思うと、その子は言った。だって男は心の声を身体で聞いたりしないでしょ。その子の言葉はたぶん真実を含んでいた。少なくとも彼女にはそう思えた。分かる気がした。そう、男は「声」を本当には聞けないのだ。以来その子のことを彼女は、博識であると考えている。男のことをよく知っている。経験の足りない部分を知識で補填している。処女らしい処女であり、一段上の処女でもあるのだ。一方で、彼女はというと、自分のことを第三の処女と位置づけているが、だがそれが何を意味するのか自分でもよく分からない。何らかの欠落を意味していると思う。処女膜を失いはしたが、経験に何かが欠けている。何だろう? 愛が欠けていたのではない。それは第二の処女である。第三の処女。私に欠けている何かがある。彼女は処女を喪う前から処女と見られていなかった。ピアスとタトゥーが好きなのである。処女の頃から舌と乳首にピアスをしていたのだ。背中には天使の翼がある。精緻な翼の絵柄のタトゥー。思うに、私に欠けているものは、と彼女は考えた。私には欠けている。処女喪失という経験に見合う自意識が欠けているのだ。処女を喪う前から処女でないような感じだったので、処女を喪ってもそんな感じがしないのである。キスも前戯もすでに経験済みだった。膜を破っていなかっただけ。それだけのことなのだ。苦痛はほとんどなかった。残念なことである。出血もほとんどなかった。残念なことである。純白のシーツを汚す赤あかとしたもの。経血とは違う別の痛みに纏わる血である。女は血を流さなければならない。一段上にあがるため、次のステップへと進むため。それは切なく、例えようもないほど切なく、ドラマチックなことに思える。そして彼女はこう思うのだ。私も処女を喪いたかったものだと。彼女は少しも狂ってなどいない。狂った奴だと言われることが好きなので、それを信じることにしただけだ。赤い夢なら本当に見る。血のように赤いけど、だがそれは恐らくコスモスの色である。コスモス? 花言葉は、おとめの真心。

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これは結構馬鹿な文章ですよ(笑)昨日、重いものを書いたので、今日は軽いのを書きたかったんです。