ある蒸し暑い夏の午後

ときどきポジティブ

ドッペルゲンガー

f:id:Outside:20220207083223j:plain

澄んだものがある。稀薄な海と似たものが。彼の波及するもの、彼のつかさどるもの。しかし彼女は(彼の愛するものは)こう考えることで彼から逃れようとする。「彼? あの変質者をそう呼ぶのなら、私もどうかしている」と。実は彼女は詩を書いている。例えばこんな詩を。「真っ白である。純度低めの私さえ鵜呑みにするほど真っ白である。いつか自分になれるかな? 自分のような顔をしてれば」これは彼女の理性的側面を端的にあらわしている。漫然と情緒を書き連ねただけのしろものとは明らかに違う。計算とオチのある詩。自分自身を客体化する第三者的眼差しもある。物語がある。彼女の物語。「地図の上では空白だけど、だけど確かに存在はする清流があるのです。あれを自分となぞらえたなら? 私は少し満足をして、たぶんみんなは無視をする」そして彼との、彼女と彼の共有する一つの物語。ただし事情は二、三ある。「彼の狙いは読めている。私と融合したいのだ。交接でなく融合である。それはあたかも適切な関係と思われる。人は自分の片割れを探すのだから」彼女は自慰をした。いつものように。下着の上から、指でなぞるようにして。下着に彼女の縦筋がくっきりと刻印された。ベランダに干しておいた。いつものように。彼は物音ひとつ立てないのである。彼女はいつも思うのだ。彼は半分空白だから、足音もしないのだろう。そうしてあくる朝には返却されている。いつものように。郵便受けに、綺麗に折り畳まれて。彼は恐らく健康だ。いつも呆れるほどカピカピになっている。乾燥した白濁は、それでも海の匂いをさせている。ほのかに香る。記憶のように? 稀薄な海の記憶のように。そう、彼女はこんな詩も書いている。ある約束についての詩だ。「遠く霞んで見えにくい、私も彼も思い出も。彼? 彼は私の思い出だけど、それは私が飼い主だから。彼に波及するもの、彼をつかさどるもの」二人はともに知っている。「決めている。彼のものにはならないと」

※ 画像はフリー素材です。

変態チックな詩だけど、楽しんで書きましたよ。出来は……
どうでしょう(笑)手応えがないです。