ある蒸し暑い夏の午後

ときどきポジティブ

詩的散文

(散文詩)夢

外は雨だと信じてたけど、ベランダに出たら曇りで曖昧な色だった。白い濁りをはらんで色褪せている。少し汚れた水晶のように、不純物の向こうに潜む綺麗なものをほのめかしつつ濁っているのだ。雨は降ってはいないけど、雨の予感をはらんではいる。雨をはら…

無題

自分の足音を聞いたよ。夜明けの街は静かだからね。真面目なほどに淡々としたそんな鼓動と似てはいた。何故だろう? 雫のような哀しみがある。蒼い水面(みなも)を乱す一滴。夜明けの街は少し荒んで見えたけど、哀しみは冷たく澄んで美しいほど蒼いのだ。真…

(散文詩)エールかな 笑

意味深な風である。優しいけれど銀色の雨をはらんだ冷たい風だ。詩を書くのならこの風をつかみ取らなければならない。風のしっぽを捕まえてその実体を記号化するのだ。リアルを前にネットはいまもなお弱い。退屈なのは独創性のないコラージュ、出来だけはい…

太古のような夜である。信じがたいほど、にわかには信じがたいほど黒いのだ。黒くて、広大。海をはらんだ広さとも認識される印象と膚。静かな闇の膚触り。黙想さえも拒むほど冷え冷えとした無音状態。やわらかいのは膚であり風であるから呼吸は楽だ。「綺麗…

薔薇(過去作)

まじめな話、 朝日のように狂った薔薇を あばらの奥で養っている。 悩んだりなどしないのだ。 薔薇はハートの色だけど、 砕け散ったりしないので。 ※ 画像はフリー素材です。過去作ですけどね、いま読んでも悪い出来ではないかもしれない。こんなものを書い…

君へ(過去作)

昔の君を呪うといいよ 今の君など造った奴だ 世界が君を愛さないのは 君が世界のお荷物だから 甘やかしてはくれないだろう 求めたことが間違いなのだ つまらぬ奴が君を指差し 声を潜めて言うだろう ああはなりたくないものだ よくも平気で生きてるものだ 太…

冬の花火

冬の花火を見たかったけど、今年は見れずじまいだったな。バス停のそばのベンチは赤いから心に残る。いつかあそこで恋をしたけど、それは余りにつかのまでくしゃみのような一瞬のショックだった。彼女の髪の色さえ覚えていない。おれは彼女を認め、恋をし、…

ふたり(過去作)

♂ボクはね 雲にはいつもむかついている 空を翔べたら嬉しいけどさ 空の青さの邪魔などしない それをするのは雲と思うね でもボクは雨の日ならば許しているよ 長靴を履けるんだから おかしなことと思うかな? つまり男は難しいのさ ボクという男はね ♀️あなた…

こだま

ビル街には谷間がある。こだまがある。グラスを満たす赤い叫びを聞く者ならば知っている。ここにあるのは置いてきぼりの声、風にちぎれてぼろ布のように破れ去った声である。数秒遅れの現実や、予知夢のような現在、しかしここには未来が足らずいつもくすん…

チョコミン(過去作)

彼はとってもおかしいの 振り返ったら逃げるので まるで知らない猫みたい 眠るわたしの唇に キスしたことは分かってるのに どう思う? それはね 君の後ろの天使だからさ 彼は恋など出来ないわけさ 恋などしたら人間だから 羽根を失くしてしまうから だから君…

愛(過去作)

空にぽつんと雲ひとつ この子の夢は いまは真っ暗 優しい雲を夢に見るには 優しい雲を知っていないと 退屈などはしてないけれど それは聴こえるものがあるから 漂うように鼓膜に届く お母さんの 歌でした 空にぽつんと雲ひとつ あなたのように静かです 際限…

正午(まひる)

おもちゃのようなバスに乗り、 目指した場所は国境でした。 ポケットの中の珊瑚を 忘れるほどに長い旅です。 郵便受けの光る街、 楡(にれ)の木のそばの老人。 蝶の集まる木もあるがそれは恐らく半分夢で。 自分の背中を見失うほど、 長い眠りを眠るのでし…

ファンタジー(その2)

そこは駐輪場と呼ばれる。店から漏れる歌声の届くところで最も暗い場所。彼は睡眠薬を飲んだ。酒で、歌声の聴こえる場所で凪いだ心を抱き締めながら。外で死ぬと決めていたのだ。彼女を第一発見者としないため、彼女を守るため。それは或いは身勝手な、自分…

三行詩

わたしと同じ後悔を あの人たちも見てました わたしはわたしの紅(くれない)を摘む ※ 画像はフリー素材です。さらに短くしてみたけど、短いから楽というわけではないですからね。それはさ、俳句や川柳を専門的に手掛ける作家がなぜいるのかという、そういう…

ファンタジー(詩)

死んだ女の最後の夢は のどを潤すことでした 夢ならば叶うものです 安らかに死んだのでした 雲ひとつない夜だったけど 涙がひとつ落ちてきたので ※ 画像はフリー素材です。 書くことが難しくなくて、なおかつ玄人から好意的に見てもらえる詩、ってこんな感じ…

まさかという……

猫は言葉を知らないの? それではきっと困るはず ボクが教えてあげましょう 「あ」は青空の「あ」 「い」はいま眠いの「い」 「う」はうつぼの「う」 「え」はエアコンの「え」 「お」は織田信長の「お」 でも猫は知らんぷり 大人のような眼差しをして 毛深…

太陽

あなたは赤い、赤い髪の女を見ている。ドアをノックするのは鳥だ。そして女はドアをあけ、光の中へ迷い込む。白い光の、それはトンネルである。脂肪のようにやわらかな光の筒(つつ)だ。脈拍があり、体温がある。あなたはそれを感じる。女の身体を通してあ…

橋の向こうの暗闇を 昨日の夢のように慕った あそこからおれは来て 今はこちらに根づきかけてる 後戻りなら出来るけど こちらに戻る橋はない 闇のまにまに漂いながら 静かに滅ぶ運命もある それも悪くはないだろう 諦めと心中すると決めたなら雫のような一つ…

リナ

紫色の傘ならば 黄色の壁と似合うはず 夜が砂漠と溶け合うように 君が孤独と親しむように 足りないものはあるにはあるが 鉄の硬さと似たものだ 隙のないもの 譲らないもの 靡かないもの 微笑んだりはしないもの しじまが少し柔らかいので 甘えのような調和に…

男娼

約束もさまざまだ。彼は彼女を裏切らず他の女と交わることが出来る。何故? 彼の愛情はその肉体の先端にまで浸透しているからだ。彼の先端、勃起した彼のぺニスの先っぽから迸る白いもの。白濁し、糸をひく、鈴の音の余韻のように糸をひくその液体は、全て彼…

ボーイミーツガール

出逢ってから二日後のこと、彼女は彼を感じながらこんな話をした。「二人だけになりたいね。人類が滅亡して二人だけ生き残るの。世界にたった二人だけ」彼女は彼を感じていた、彼の呼吸と熱と匂いを。彼の腋毛を湿らす汗がほのかに香っているのである。二人…

貝殻(簡単な詩)

この貝殻は手紙です 中には文字が書いてある 何と書いてあるでしょう? 虹色をした殻の中 夏色をしたメッセージ「海を見上げる坂を見たいの わたくしちょっくら旅に出ます」※ 画像はフリー素材です。所要時間五分の仕事(笑)まぁこういうのはこういうのでア…

脱出

そして話はひとつの道を辿るのだ。甘い今後を夢想しながらみんな滅んでいくのです。バスに乗り合わせたわけは? 同じ未来を望むからです。平和のような木漏れ日の中、ひとつの場所を目指しています。二人の逃れようとしたもの。それは恐らく正当なもの、正し…

プテロスの片隅で

「またはそうでなければ、何か再び壊れるだろう。再び? 一度めはイエルの海を見た時だ。あれは記憶を映すからである。ひすい色した水面の映す秘密というものがある。脳と呼ばれる森の深間のその奥に置き去りにした、君の忘れた君があるのだ。イエルの海はそ…

微香性

テレパシーである。彼と彼女のあいだには、眼には見えない絆があるのだ。眼に見えず、耳に聞こえず、しかし確かに二人は対話している。どのようにして? 彼女が彼の髪を切り、そうして彼が、彼の意識がそれを全面的に受け入れることによって。恐らくそうだ。…

聖(セイント)エドナ

彼に理由を問われたもので、彼女は少し考えた。理由? 彼と別れる理由だろうか、それとも彼と今まで別れずにいた理由だろうか。だがすぐに、考えるまでもないことだと気づいた。それら二つは同じ理由を共有していたからだ。「私はあなたには完璧すぎるの」と…

夜の断章

ネオンの灯るその下で、若者がカップ麺を啜っている。店の入居している雑居ビルの壁を背に、しゃがんで、ネオンの色の変わるたびその顔色を赤やブルーに変えながら。彼は誰にも注意されないだろう。ネオンの謳う店の名前を考えたのはおれである。ママだけが…

万事快調

朝か午前か? 九時半である。彼女は目覚め、混乱し、そして理解し、安堵しただろう。隣の部屋を感じたはずだ。リビングである。リビングから声が漏れ聞こえてくる。それをラジオの音声だと認識するのに要した数秒間がある。テレビではない、ラジオだ。そこへ…

呼吸の問題

空があるのは色があるから。他の理由があるだろうか? あるだろう。盲人にとっても空は存在するのである。盲人は空を感じる。空の青みを知らずとも空を感じていると思う。これは呼吸の問題だろう。時空ではない。彼女が敬語を使い始めた。おれに対して何か気…

おとぎ話

何故? つまり彼女は聞きたいことがあるのである。要求は答えである。彼の答えを貰えるまでは要求をする。何故? 背景を為す物語、後ろに広がる光景をもの語るのは野暮に思える。彼女からこの問いが投げかけられたことが重要なのだ。何故、私を置き去りにし…