ある蒸し暑い夏の午後

ときどきポジティブ

太陽

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あなたは赤い、赤い髪の女を見ている。ドアをノックするのは鳥だ。そして女はドアをあけ、光の中へ迷い込む。白い光の、それはトンネルである。脂肪のようにやわらかな光の筒(つつ)だ。脈拍があり、体温がある。あなたはそれを感じる。女の身体を通してあなたもここへ迷い込んだからだ。彼女の心は見えないが、彼女の見るものは見える。彼女の触れるもの、聞くもの、いずれもあなたの身体にじかに伝わる。だが、彼女の心だけは見えない。トンネルの出口も見えない。後ろのドアはもうないだろう。彼女は後ろを見ないけど、あなたはそれを知っている。彼女とともに、あなたは前へ進む。光の筒は真っ白で、見えているけど見えてはいない。手探りで暗闇を進むようにして進む。不安の中を、快い不安の中を進む。蹠(あしうら)が雲をつかむようだ。やわらかく、弾力があり、それは命の質感を感じさせる。脈拍があり、体温がある。脈拍はあなたを巡る血潮のように肉体とよく馴染む。あなたの肉体と。それは聞こえはしないけど、肌を通さず肌の内側にじかに伝わるものだ。やがて、それは当然予期されながら、やはり或る驚きを伴って眼の前にあらわれる。ふいに視界がひらけ、あなたはハッとして立ち尽くす。女はハッとして立ち尽くす。あなたはそれを見ている。女は高所から下界をみおろす。そこは古びたビルの屋上である。稲妻状の亀裂の巡る壁面のあるビルの屋上。下界では真昼の街が蠢いており、ざわめきが潮(うしお)のように伝わってくる。そしてあなたは悟る、次に何が起きるかを。あなたは悲鳴をあげる。女が足を踏み出し、そうして赤い、赤い髪が宙に翻るように踊る。あなたは見る、迫りくる地面を。あなたは悲鳴をあげる。薇(ぜんまい)じかけの太陽を見つけた時は遅いのだ。あなたは砕け散って果て、そして女は屋上の上にいる。

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これは散文詩かな。掌編小説ではないと思う。どっち?みたいなのもおれは多いですからね。個人的な作品。個人的な恐怖。でも始めからテーマが見えていたわけではなくて、書いているうちにテーマが浮かび上がってきた感じです。ひとつ、おれの秘密を勝手に明かしますけど、おれはテーマが分からないまま書いていること多いです。フィクションの場合は特にそう。ヘタしたらどんなお話なのかも分からないまま書いている。不思議とまとまった作品になるんですよね。もっと支離滅裂なものも書きたいと思うけど、なかなか書けずにいます。最初にテーマやプロットがはっきりある人もいて、書き方は人それぞれ全然違う。たぶんだけどね、プロの物書きへの第一歩は、自分の書き方を見つけること、だと思う。だと思います、たぶんね。まぁそれに、プロを目指さないという道もある。それも自分の書き方であり、生き方です。今なんか良いことを言ってしまったな、おれは。偉いな。怖いな。