ある蒸し暑い夏の午後

ときどきポジティブ

危険の終わり

f:id:Outside:20220108150256j:plain

なぜか橋が浮かぶ。橙色のライトの照らす夜の鉄橋。いつ見たものか定かではない。夜を駆けると橋と出くわす。記憶とも似たイメージが頭の隅にあるのです。人かげのない鉄橋は無人の都市を想わせるけど、心細さを醸し出すのはそれが巨大な沈黙だから。眠りとは似ても似つかぬ温もりのない静けさを、人は恐らく恐怖に近い何かと見間違えるのでしょう。

f:id:Outside:20220108150928j:plain

ところで、危険のそばで見つけたものを、真夏の夜と結びつけ、恋い慕うならどこか病んでる。死のような、まさに死のような危ういものを恋い慕うのは。三十過ぎて、おれの余生は始まったけど、夜霧の奥を生き延びたのは勿論おれだけではない。一生分の思い出を持つ若者ならば結構いると、おれは何故だか確信さえしてるのです。いまも生きてる幸せを、知らないことも幸せだけど。でも、知っているから輝くものも。いまこの時とか、何もしてない時間とか、彼女の鼾(いびき)とか。死の話ならしたくはないが、みんなそいつを待たせています。鄙びた駅の待合室で、傘を片手に待っているはず。傘ならどうせ黒ですね。ずっと待たせてやったらいいと、吐き捨てたのは誰だったかな?
ニーチェかおれか誰かです。

※ 画像はフリー素材です。